茨木市における河岸林調査研究(第一報)

    西河原公園(旧安威川流域)樹木調査報告

             
                        西河原公園中央河岸林

                    2002.2.25

河 岸 林 研 究 会

     (ばらとかしの会有志) 


要  約


甚大な洪水の被害から、河川の流れを変えた大規模な、茨木川と安威川の合流事業から60余年経過している。市中央を流れていた茨木川は元茨木公園となっているが堤を低くして改修した為、旧河岸林のほとんど残っていない。

しかし蛇行していた旧安威川の流れを改造した跡は大きく変わらず、現在も西河原公園として、茨木の河川、河岸林の貴重な史料として立派に整備保存されている。

本報では西河原公園の毎木調査を行い、公園樹木の構成、河岸林との関係、旧河川の流れなどを推測した。直径5cm以上の総樹木数1970本であった。

公園樹木の構成で植栽も含めて、上位10ではムクノキ241本(最大径93cm胸高断面積合計218,870cu)、エノキ224本(最大径83cm胸高断面積合計163,481cu)、クス165本(最大径75cm胸高断面積合計115,774cu)、ケヤキ132本(最大径75cm胸高断面積合計90,257cu)、アラカシ329本(最大径55cm胸高断面積合計68,502cu)、サクラ96本(最大径51cm胸高断面積合計59,303cu)、アキニレ48本(最大径50cm胸高断面積合計25,078cu)、メタセコイヤ17本(最大径59cm胸高断面積合計16,893cu)、シラカシ70本(最大径32cm胸高断面積合計14,838cu)、ナンキンハゼ26本(最大径38cm胸高断面積合計13,915cu)であった。

旧安威川の河岸林と考えられる樹種で胸高直径で樹の構成で見ると、ムクノキ、エノキ、ケヤキ、クスで50cm以上では50本で86%であり、40cm以上では163本83%を占めていた。森の生育構成を見る、樹の胸高断面積合計から見てもこの4種で67%を占めており、旧河川の河岸林が主構成となっていた。

さらに地形からの築堤の様子と、河岸樹と見られる40cm以上の主樹種を地図上に追うと当時の河川の流れを推測することができた。種々の推測の可能性があるが本報では、2001年の時点での記録として残すにとどめた。


 西河原公園東から

緒  言

洪水から逃れるため茨木川が安威川に合流させ、市内中央部に位置する茨木川は元茨木川公園となり、蛇行していた旧安威川流域が西河原公園となった。安威川・茨木川合流の後約60年を経過している。

河川がどう流れていたかは地層の調査等で大まかな歴史は分かるが、比較的短いスパンで見るときに、植物、特に河岸に生える樹木を調べる事は極めて実践的で、人が語り継げない長期の歴史を語る一つの自然の材料である。

この様にして残った河岸林はほとんど無いであろう。

西河原の当時の様子を「石の橋の上から川に飛び込んで遊んだ綺麗な砂の川だった」と身をもって語ってくれる人はもう70才を越え、聞いた方の現世代人の記憶も薄れる。

宮山調査を続けていた、著者の一人でもある大阪府自然環境保全指導員萩原寛の呼びかけにより、ばらとかしの会の有志と河岸林研究会を作った。

茨木の河岸林調査をはじめるに当たり、現存する公園で、人工で付け替える前の流域型が推測でき、まさにそこに生えていた樹木があり、今なら河岸を推測する事が可能な西河原公園を調査することとした。

洪水と戦った貴重な文化遺産の河岸林である。

21世紀の始めの年に観察記録して置けば、また数十年後に誰かが老木と出会い、又その変化を見ることもあるだろうとの期待もあった。

今回の調査報告は総樹木数1970本の粗データの記録、河岸林と旧河川の様子の推測、及び森林としての植生の若干の解析に留めた。今後周辺をデータを補充し、さらに調査研究を続ける予定である。

調査日時

2001年9月30日から2001年12月25日

調査方法

胸高直径5cm以上の樹木の毎木調査、樹種、直径を中心に、高さ、樹冠、株立ち、切り株等参考に記録。

調査区分

解析上は国道171号線より北、それより旧石橋のある道路まで中、石橋より公園南入口まで南の3区になるが、調査の便宜上6区分さらに小区分の粗データとなった。

詳細区分は概略図(図1中野)に示した。

調査結果および考察

結 果

表1(永田・福井)・図2(永田)に示す。

解析1

樹径と優先樹種を抽出すると表2(佐藤)となり、50cm以上の樹は58本あり、上位4種ムクノキ、エノキ、ケヤキ、クスで50本86%を占める。40cm以上では163本中同4種が147本で83%、30cm以上で見ると409本中312本で76%であった。

河岸林の樹種として上位10種を見る4種に加えてセンダン、アキニレとアラカシの大径木は河岸樹であったと推測されるが、サクラはソメイヨシノであり植栽、シラカシ、マテバシイ以下は明らかに植栽されたものと推測された。


解析2

主要な樹種を色分けした図3(早川)で公園の樹木と位置と全体像が判る。

解析3

解析1の結果から、40cmの主要樹を図3上に黒印の加筆プロットしたものが、図4(佐藤・早川)で、旧河岸を推定できる分布をしていた。さらに50cm以上をプロットすると図5(萩原)となり、旧安威川の大まかな推定流域図となる。地形等と共に見ると当時の旧河川の流れが推測できる。

解析4

公園全体の樹木の樹種を整理しあげると表3旧安威川河岸林調べ(萩原)となり、樹種68種切り株など除くと1947本におよび、最大直径ムクノキ93cm、エノキ83cm、クス75cm、ケヤキ75cm、アラカシ55cmと河岸林樹種の樹齢の長さに歴史の重さを感じる。3では、森林として解析するため直径以外に樹冠等生育占有率を反映させる為、断面積合計を出しているが表4で示したようにムクノキ24.1%、エノキ18%、ケヤキ9.9%、クス12.8%、アラカシ7.5%、サクラ6.5%、アキニレ2.7%と、解析1とほぼ同じ傾向が見られた。又落葉樹と常緑樹を分析すると5図7(萩原)となり、落葉樹が68%を占め、未だ明るい森のおもむきがあることがわかった。

概ね旧河岸林が保存された形での森林となっていると考えられた。

解析5

樹種に地区より明らかな偏りがあり、例えばアラカシは本数329で全体の17%、断面積で見ると7.5%の占有率になるが小径木で北公園に特に多く116本と密に植えられている。直径と共に、何処に偏って何本あるか等の分布により植栽と区分できそうである。北地区の樹種別本数表6及び図8、中地区表7図9、南地区表8図10(中野)でそれぞれ示した。

当然のことであるが河床部に植えられれた樹種も参考になる。

例えば北公園にはラクウショウ、171号線より南にはメタセコイヤが植えられている他イチョウ、フウ、トウカエデ、カツラ、ハナミズキ、イロハモミジ等は判りやすい。

運動公園側の旧堤上部に並木として見られるソメイヨシノや生垣状に密植されたものも多い。

 記録されてないものに中央洪水敷きにモウソウチクの林が残されている。

その他

河岸樹としてあったムクロジュは河床より比較的高い位置に切り株で見られた。

又本公園で珍しい樹木として、ナナミノキ、ニガキがあげられる。

中地区の中央西入り口に通じる道には、疣水神社の昔の参道だったと考えられる一対の石灯籠とその脇に3連のケヤキがあり、川を東にわたって祠があり、北に曲がりまた東に向いて神社通じる道があり昔の面影が残っていた。

適 要

1.河岸樹の分布と旧河川の流

旧河川の河岸にあったと推測される樹木は解析3に示される40cm以上の樹木を選別し、その中で明らかに植栽されたものを除いてプロットした図4に示し、さらに50cm以上要約を図5にしめす。明らかに植栽されたものは、解析5から植栽種は樹種の直径、数の偏りで推測できるものもあり、図4で旧河川河床部の樹木、新しい樹種等を除いてある。

2.河岸林構成樹木

68種の内ムクノキ、エノキ、ケヤキ、クス、アラカシ、アキニレ、センダン等

構成上位にあり、大樹に河岸林の面影を残している。


3.公園としての植栽木の推定

旧河川の河床と推定される最も低い平らな部分の樹木等とアラカシ、ウバメガシ、ネズミモチ等垣根状に並んで植えられているもの、ソメイヨシノ、イロハモミジ、ネズミモチ、アカマツ、マユミ、アオキ、ツバキ、カシワ、外来種のハナミズキ、ラクウショウ、メタセコイヤ等が見られた。

4.その他

森は時と共に変化して行くが、洪水からの河川改修の生きた遺跡として、公園を見ることが出来た。


参考文献
   茨木市教育委員会編(1991)わがまち茨木 水利編

 ばらとかしの会(河岸林研究会)2002.2.25

  佐藤幸男、福井洋、中野義弘、早川俊博、永田健二、萩原寛、

  竹内キヨ子、石田泰造、川野慶子、虎谷登子、井上正雄、村林旭、菅井基展