第42回ジュニアオリンピック

(10/28〜30 横浜日産スタジアム)RESULTS

     
大会ビデオ:右のテレビの絵をクリックすると大会ビデオが見られます。


  ○   Aクラス女子100mYH 岡田 萌 15秒24(−0.1)

 <準決勝> 14秒88(−0.5)<決勝>14:87(+0.1)6位

   Cクラス女子100m 山本祐莉 12秒90(−1.9)

 <準決勝> 12秒82(−0.1)<決勝>12秒81(−0.7)6位

   ABC共通女子4×100mR

(山本祐莉・川崎咲良・木本彩葉・木村瑞穂)47秒83 大阪中学新記録

 <準決勝>

(山本祐莉・川崎咲良・木本彩葉・木村瑞穂)48秒04 大阪中学新記録

 <決勝>

(山本祐莉・川崎咲良・木本彩葉・木村瑞穂)47秒77 3位 大阪中学新記録

   第42回ジュニアオリンピック陸上競技大会。この中学生アスリートの祭典に今年も3名の選手を連れて、新横浜の日産スタジアムの夢舞台に立てたことに感謝の気持ちでいっぱいになります。自分は大阪強化部の一員として、水曜日の晩に車で移動。早朝に現地入りして場所とりをするという毎度の強行軍であるが、気持ちが高ぶっているせいか大きな疲れは感じない。朝の新幹線で横浜に移動して昼過ぎに岡田萌、山本祐莉、西尾香穂の3人の選手がやってきた。いつもと変わらぬ明るく元気な3人の様子を見てほっとした。メイン競技場でまず大阪女子選抜リレーの練習を見る。山本と西尾の2人も加わってバトンジョッグが始まった。今年のチームは例年にも増してチームワークが良く、この大会に至るまでの4回の練習でも今までにないくらいの手応えがあった。1時間少しの練習が能率良くおこなわれた。そのあと、山本はスタブロを使ってのスタート練習。さらにはサブトラックに移動して、岡田のハードルのアプローチ練習を見守った。これまでのJH(ジュニアハードル)と違って、YH(ユースハードル)になり、ハードル間のインターバルが8mから8m50に変わって、格段に岡田の3歩の刻みがリズミカルになった。過去4回の全国大会(1年ジュニアオリンピック、2年の全中、2年のジュニアオリンピック、3年の全中)とは、比べものにならないくらい動きの良さが際立ったのだ。彼女のYHのベスト記録14秒28は、プログラム記載のYHの記録としては、優勝候補筆頭の京都文教のヘンプヒル恵選手の14秒04に次ぐ2位の記録である。「表彰台にあがる」ことを目標に、ここ横浜にやって来たのだ。身が引き締まる思いで、サブトラックをあとにした。ホテルに向かう鳥山川の遊歩道。浜鳥橋のたもとで右折する。このあたりはいつも数匹の野良猫がいて、毎年見るたびに何となく安心したりする。今年もマルマル太った野良猫を見て思わず笑顔になる。夕暮れの中、この小道をいつもたくさんの夢と思いを抱きながら、選手とともに歩いて来たので感慨深くなるのだ。横浜は大阪よりも陽が暮れるのが早く、たちまち薄暗くなる。寒さを感じる秋風も今年はいつもより穏やかに感じた。

   勝負の大会1日目を迎えた。岡田のAクラス100mYH、山本のCクラス100mのそれぞれの予選、準決勝、決勝の日である。競技ダイヤの関係で岡田は8時に競技場入り、山本と西尾は9時前に競技場入りとなる。8時過ぎにまず岡田といっしょにサブトラックに向かう。予定していたとおりに、アップを順調にこなす。JHのサイズで3台のアプローチ練習をしてから、YHの3台のアプローチ練習をする。始めに8mのインターバルで刻んでからの方が、8.5mのインターバルの刻みがよくなるので、前日からこのやり方をすることを2人で確認していたのだ。ただ、ハードルの台数が少なく、思った以上に並ぶ時間がかかり少々ジレた。予定していた本数よりも1本少なかったものの、そこそこのイメージで9時25分頃に選手招集場に送り出した。

   10時05分。Aクラス女子100mYH予選。全部で6組あり、各組3着までと、4着以下記録上位6名が準決勝進出となる。2組8レーンに岡田萌が登場。東雲のブルーのセパレートのユニフォームがこの競技場にひときわ映えた。スタート前に1回のアプローチ練習が許される。丹念にスタブロをセットしたあと、岡田が8人の選手の中で最後に走り出した。ところが1台目で足が合わず立ち止まってしまった。この光景は予想外で、岡田が平常心をやや失っているように感じた。けれでも、そのあとの岡田は過去に全国大会を4度経験しているだけあって落ち着いていた。そばに居た審判に「もう1回やり直します。」と、声をかけてあらためてアプローチ練習をやり直したのだ。スタートのピストルが鳴った。1台目のアプローチがやや不自然になったものの、落ち着いて岡田は3歩を刻んでいく。2着でフィニッシュ。簡単に準決勝進出を決めたが15秒24の記録にはやや不満が残った。

   岡田のレースを見届けてすぐに、山本祐莉といっしょにサブトラックへ向かった。山本は小学校6年生のときに、玉島白川陸上クラブの第2走者としてリレーで国立競技場を走った経験がある。多少の場慣れはしているものの、このジュニアオリンピックの雰囲気に緊張がないわけがない。ところが、彼女の持ち前の天真爛漫で陽気な性格のおかげか、その緊張しているようなそぶりは何ひとつ感じさせない。サブトラックでもショートスプリントをくり返し、スタブロをセットしてスタートダッシュの確認をした。スタブロに置く後ろの足の位置をほんの少し変えるようにアドバイスをすると、「すごくやりやすくなりました。」と、ニコニコしている。選手招集場に送り出してやるときも、満面笑みで「お願いします」と元気に頭をさげて、薄暗い招集場に入って行った。

 11時50分。Cクラス女子100m予選。3組9レーンに山本が登場。今大会のリスト3位の12秒66の記録を持つ兵庫の日高東の神谷が6レーン。山本の持ちタイム12秒77は7位タイの記録である。スタートを待つ山本は腰に手をあて体を左右にねじり、髪をかきあげるそのしぐさがとても1年生には思えない。ピストルが鳴ると、スタート良く山本が飛び出した。中盤になってもその勢いは止まらない。フィニッシュライン手前でわずかに山本が前に出て1着で駆け抜けた。向かい風1.9mの中12秒90。順調である。深々と一礼をして、大阪ベンチの声援に手をふる山本の姿が大型映像に映し出された。そのようすを見届けてすぐに岡田に声をかけて、2人でサブトラックへ向かった。

   勝負の準決勝を迎える。岡田は2年生の全中、ジュニアオリンピックと準決勝敗退している。準決勝は3組あって各組の2着までと3着以降の記録上位者2名が決勝進出となる。サブトラックでのハードルアプローチ練習では24人の選手が集結。独特の張り詰めた雰囲気が流れていた。1台目のアプローチの出来が岡田のレースの結果を大きく左右する。多少出遅れてもいいから、1台目の板の上をできるだけ速いスピードで駆け抜けていきたい。本人が考えすぎないように、できるだけシンプルに捉えさせたいと思い、あえて多くのアドバイスは送らなかった。

 13時00分。Aクラス女子100mYH準決勝1組。5レーンに優勝候補筆頭のヘンプヒルが5レーン。その隣の4レーンに岡田萌。ファンファーレが高らかに鳴りレーン紹介が始まった。左手を高くあげて一礼する岡田の姿が大型映像に映し出される。「もえ〜!!」と、大阪選手団から大きな声援。「SET!」スターターの乾いた声。祈るような思いで固唾を呑む。ピストルが連発で鳴った。隣の5レーンのヘンプヒルのフライング。スタートのやり直しとなった。陸上の神様は肝心なときになぜいつももったいぶるんだろ?プラスでも決勝進出が可能なだけに、岡田にはできるだけいい条件で走らせたかったので心の中で舌打ちをした。閃光とともに、今度は8人の選手がきれいにスタート。岡田も勢いよく飛び出して、何と隣のヘンプヒルより早く1台目を越えて行った。2台目でヘンプヒルに抜かれるが2位をキープ。8台目あたりで千葉の選手にも抜かれてしまうが3位でフィニッシュ。1位のヘンプヒルがさすがの14秒08。2位が14秒70、3位の岡田が14秒88。向かい風0.5m。そのあとの2組、3組ともに2着までが14秒台で3着以降が15秒台。結局、岡田がプラスの一番目になり、悲願の決勝進出が決まった。

   14時15分開始。Cクラス女子100m準決勝。先ほどのハードルと同じ条件で3組2着プラス2が決勝進出の条件となる。山本は3組5レーンであった。準決勝1組のリアルリザルツを見て頭を抱えこんでしまった。追い風1.5mの好条件とは言え、1着が12秒67、2着も12秒67(着差あり)、その後12秒69、79、91、93とこの組だけで12秒台が6人もいるのだ。さらに2組も追い風1.1mで1着から12秒59、63、77、89、95、97と12秒台がまたもや6人。レベルが高すぎる!!毎年この大会に参加しているが、間違いなく史上最高レベルの準決勝となってしまった。今日の日産スタジアムは珍しく風向きも気まぐれで向かい風2m以上もたびたび表示される。直感的に山本が3組で着取りに入らなければ、山本の決勝進出はないと思った。3組のスタート前。山本はリバウンドジャンプを繰り返したり、体を揺すったり・・・。こちらのあせりは何も意に介してないようすで、相変わらずの大物ぶり。スタートを見守ったが、またもや陸上の神様がもったいぶる。隣の4レーンの選手のフライングである。スタートのやり直し。重苦しい雰囲気の中、ピストルが鳴ると8人の走者が今度はきれいなスタート。山本が好ダッシュを見せた。中盤から抜け出してトップの位置に。フィニッシュライン手前でかわされたものの、2着でフィニッシュ。大型映像に映るリプレイでもう一度確認する。2着。12秒82.この組だけがわずかに向かい風で0.1m。この組も12秒台が5人。何と準決勝を走った24人の選手の内、17人が12秒台で走ったことになる。この激戦の準決勝を山本が見事に勝ち抜いて、とにもかくにも決勝進出を決めたのである。この種目では東雲にとっては、2006年に久貝が7位入賞して以来の快挙となる。

   大阪ベンチに帰ってきた2人。朝からあわただしく時間が流れ、ほとんど何も食べずに疲れもあることでしょう。この大会と同時開催されている日本選手権リレー4×100mRの予選(生の福島千里の走りに感動した!!)、Bクラス女子1500m予選が行なわれているときはゆっくりさせた。岡田と決勝のアップについて相談すると、「ハードルのアプローチ。

練習はいらない」と言うので、サブトラックでのアップはとりやめて、招集場の近くで簡単にアップすることにした。3時40分過ぎに、岡田に声をかけてベンチを後にした。長いらせん階段を2人で降りながら、決戦に向けて気持ちを高ぶらせていた。

   選手招集場のすぐ前に、シャトルバスのバス停近くになるが、とても見晴らしのいい取り付け道路がある。天気が良ければ遠くに富士山が見える場所にもなるが、この時間帯はほとんど人通りも少なく集中しやすいところである。岡田はここで軽いジョッグのあとに体操とストレッチ。そのあとに股関節まわりの可動域を広げるような動きづくり、段差やラインを使ってスピードプレイをしながら、体をほぐしていった。ふと、岡田萌の1年生の頃のことを思い出した。ハードルにはもともと目を見張る才能を持っていたが、スピードの強化が課題であった選手。1年のジュニアオリンピックのときは新型インフルエンザにかかり、本来の力を出せずにまさかの予選落ち。咋年のジュニアオリンピックは100分の5秒差の9番目の記録で準決勝敗退。そして今年・・・。この3年間リレーの中心選手としても活躍し、今年は48秒台のチームの第2走者をつとめるまでに成長したのだ。すばらしい活躍をしてくれた選手なのに、なぜだか悔しくて涙を流したときの泣き顔の方が印象に残っている。16時20分。「3年間の総決算のレース。そのレースが全国大会の決勝の舞台になるのだから、申し分ないはずだ。悔いのないように。」と、言い渡して彼女を選手招集場へ送り出した。この選手招集場前に、岡田と入れ替わるように山本がやって来た。決勝前のアップはどうしてもスタブロを使って1回だけダッシュをしたいというので、2人でサブトラックへ向かった。彼女のスタートダッシュを見届けてから、すぐに山本を選手招集場へ送りこんで、慌ててメインスタンドに向かった。もうすぐ、岡田の決勝が始まるのだ。

   16時45分。Aクラス100mYH決勝。照明の一部に灯がともり、幻想的な雰囲気の中、8人のファイナリストが勢揃いした。岡田にとっては、自身初めて経験する中学の全国大会の決勝の舞台。彼女の姿を一瞬も見逃さないという思いで目をこらした。高らかにファンファーレが鳴ってレーン紹介が始まる「第2レーン。岡田さん。大阪東雲」例によって左手を高く上げて一礼する岡田。大型映像にもブルーのセパレートのユニフォームが映えた。スターターの合図で場内が静まりかえる。運命の号砲が鳴った。岡田のアプローチが遠慮ぎみに見えた。その分、1台目が高く浮きぎみになったが、そのあとは夢中で8.5mのインターバルを刻んでいく。1着が4レーンのヘンプヒル選手で14秒03.2着が山口国体でも活躍した山口の萩西中の南野選手。そのあと14秒54、56と続いて、14秒81が5着。そして、14秒87で岡田萌が6着に入った。「全国6位入賞おめでとう。」である。それでも、本音の部分では「(この結果に)残念であった。」という気持ちもある。「全国6位入賞で残念であった。」と思える選手と、この3年間いっしょに夢を追い続けることができたことの自分の幸せを噛みしめた。

   17時05分。Cクラス女子100m決勝。すっかり真っ暗になった空に、照明に映える8人の選手たちが、とても1年生とは思えない貫禄を見せている。8レーンに山本、彼女のルーティンがすっかりできあがってしまっていて、決勝レースに向けて集中力を高めているようすが大型映像に映し出されていた。日本中学1年生最速スプリント女王が決まるレースでも、審判の合図でスタブロに足を置いて、片膝をついてゴール地点を見つめる山本の姿に舌を巻いた。閃光(せんこう)がまぶしく光ると、8人の走者がきれいなスタートを切る。好ダッシュを見せる山本。中盤あたりで5レーンの選手が前に出る。あとは、混戦。なだれのように5、6人の選手がフィニッシュラインを駆け抜けた。順位が確認できずに、大型映像のリプレイに目をやる。フィニッシュライン手前でスローになるのだが、それでも5着か6着あたりか。大型映像の反対側にある電光掲示板に目をやり、今度はリアルリザルツに注目する。アップテンポのBGMに合わせて1着から順に正式記録が発表されていくのだ。山本は6着。12秒81。5位の選手とは同タイムながら、着差あり。(1000分の1秒単位で見極めて、1000分の2秒以上の差があれば着差がつくことになる。)4位の選手が12秒80であるから、100分の1秒以内に3人の選手がなだれこんだことになるのだ。ベンチに帰って来た山本に「6位おめでとう。」声をかけたが、しばらくするとたまらず泣き出した。負けて悔しいのである。来年、再来年とさらに上を目指していこう。夢は100mの日本一。そのことについては一点の曇りもなく、間違いなく目指すつもりだ。

   大会2日目。リレーメンバーに入っている西尾はサブトラックで調整練習。万全の準備をして、明日の本番に備えた。戦いが終わった岡田と山本は大阪ベンチで応援団長を買って出ていた。東雲を2年前に卒業して東大阪大敬愛高校にすすんでいた田中美調が元気な姿を見せた。この大会と併催されている日本選手権リレーに出場しているのだ。彼女は1週間前の愛知県瑞穂競技場でおこなわれた日本ユースの400mHで、大会新記録で優勝。日本一になっている。ユニフォーム姿になると、トップ選手のオーラを醸し出すが、ジャージ姿になると中学生のときの田中と同じ印象になる。

  この日おこなわれたBクラス女子100m決勝で、大阪芝谷中学の川崎咲良が優勝。日本一になった。西尾  と大の仲良しであるが、西尾は地区でも大阪でも川崎に勝てなかった。ジュニアオリンピック挑戦記録会の  決勝で、西尾は追い風参考記録ではあるが12秒39(予選では公認の12秒57)で走っても川崎に 勝てなかった。西尾の記録は、例年なら個人種目でもリレーでもジュニアオリンピックに出場できるレベルで ある。「道理で咲良(さら)ちゃんに勝てなかったはずだ。咲良ちゃんに勝てば、日本一になれるよ。」声を かけると、西尾ははにかみながら苦笑した。

○ 大会最終日。ABC女子共通4×100mRの予選、準決勝、決勝がおこなわれる日である。朝5時30分に起床。6時30分過ぎにチェックアウトを済ませて、6人の選手を連れてあわただしくホテルをあとにした。6時50分頃にサブトラックに到着。47都道府県の代表チームが、それぞれ郷土の誇りを胸に声高らかに気合い十分のバトンジョッグを繰り返していた。大阪選抜チームの監督をまかせてもらって今年で3年目になる。今年のチームは、ある意味一番自立したチームという印象を受けている。3年生の西陵中の木本、菫(すみれ)中の木村がよくチームをまとめている。2年生の川崎、そして1年生の山本は木本と同じ三島地区の選手なので大変仲がいい。オーダーは第一走者から、山本、川崎、木本、木村である。第5回記録会でおこなわれたJO選抜壮行レースではこの4人で48秒66の記録を残している。(選抜リレーの大阪中学記録は48秒31)本番の朝も、やらなければならないことを手際良くテキパキとこなしていく選手たち。きっと、大阪中学新記録を出して決勝に行くだろうという手応えがあった。「JO選抜リレーメンバーに入れなくて悔し涙を流した選手もいる。大阪代表チームとしての誇りを持って走りなさい。」と、4人の選手を送り出した。

   9時30分競技開始。ABC女子共通4×100mR予選。全部で6組あって、各組の2着と3着以降のタイム上位12チームが準決勝に進出できる。大阪は6組6レーンに登場。この組の2レーンには千葉、3レーンに埼玉、4レーンに愛知と陸上強豪県がそろう。ファンファーレが鳴り、レーン紹介のときの第1走者の山本のルーティンを見て、「とても1年生には見えませんね。」と、そばにいた凛んぐの小西トレーナー。いつもの東雲のブルーのセパレートのユニフォームではなく、イエローカラーの大阪のユニフォームに少し違和感があった。ピストルが鳴ると、山本がぐんぐん前に出る。真っ先にバトンが渡る。(後でビデオを見て気付いたのだが、愛知県の第1走者はCクラス100mチャンピオンの掛川選手である。)バトンを持てば、さらに速くなる東雲のDNA健在なりの印象を受けた。川崎とのバトンがドン詰まりになるものの、Bクラス100mチャンピオンの川崎が気持ちよさそうにバックストレートを駆け抜ける。第3走者の木本のところもやや間延びしたものの、曲走路でピッチを上げる。4レーンの愛知と接戦である。第4走者の木村は落ち着いてバトンをもらうと、ホームストレートを颯爽と走り抜けた。1着が愛知で47秒71。2着大阪47秒83。朝一番の予選からいきなり大阪中学新記録を樹立したことになる。予選が終わって47秒台を出したのは愛知、静岡、大阪の3チームだけ。きわめて順調な滑り出しとなった。

   11時過ぎにサブトラックへ向かった。いよいよ勝負の準決勝に向けてのアップが始まるのだ。「咲良先輩とのバトンパスで、テークオーバーゾーン入り口ぎりぎりでバトンが渡りそうになったので、その分待ってしまって、さらに掌のわきにバトンが当たってしまいました。」と、山本。「もう無理矢理、バトンを奪い取ったって感じです。走りもイマイチで、準決はもっと速く走れます。」と、川崎も続けた。速いバトンフロートを意識した練習で、2走の川崎と3走の木本のところだけ脚合わせを1回だけした。最後にリレーメンバー6人を集めて、「今から日本一になるために、マジックをかけます。」と切り出した。懐から1本のマジックペンを出して、「バトンをもらう掌の中指の下あたりに、マジックで×を書きなさい。この×を一瞬見つめてからバトンを渡すように。」川崎は「とってもやりやすくなりました。」と、この作戦がお気に入り。いきなり、そばにいた山本が「そのマジックペン私に貸してください。」「何に使うん?」「表彰セレモニーのときに、プレゼンターの福島千里選手からサインをもらうのです。」ときっぱり。「まだ、決勝に行けるかどうかもわからないのに・・・。その話は決勝進出が決まってからやな。」和やかな時間が流れて行ったが、選手招集場へ送り出すときにはすっかり6人の選手は戦闘モード。円陣を作って大きな声で気合いをいれた後、4人の選手が薄暗い選手招集場へ消えて行った。

 12時40分。ABC女子共通4×100mR準決勝。3組2着+2が決勝進出の条件。大阪は3組7レーン。5レーンに愛知がいて2度目の対決となる。47秒台のチームが3チームしかないのに、3組に47秒台が2チームいるのは、組に恵まれていないとも言えるが、普段どおりの走りをすれば決勝に行けるはずだと自分に言い聞かせた。スターターのピストルの合図で、9人の走者がきれいにスタートを切るが、中盤あたりから山本が前に出る。予選に続き、愛知の掛川よりも早くバトンを第2走者に渡す。マジックのおかげか?きれいにバトンが渡り、Bクラスのスプリントチャンピオンらしく川崎がぐんぐん前に出る。第3走者の木本、第4走者の木村と難なくバトンが渡る。またもや、愛知にかわされたものの、大阪が確実に2着に入り決勝進出を決めた。1着愛知47秒81。2着大阪48秒04.この記録も大阪中学新記録となる。準決勝2組で1着に入った東京が47秒89で走り、4チーム目の47秒台となった。大阪は準決勝を4番目で通過したことになる。

   準決勝が終わって、濃密な時間が流れていた。06年に大阪がこの種目で日本一になった時もそうだったが、ファイナルチームだけが感じ取ることができる独特のプレッシャーと、選手個々が心の中で戦っているのだ。小西トレーナーのマッサージを受けたり、シートの上で横になったり、そして大阪チームの応援をしたり・・・。14時15分過ぎ、「今からアップに行くよ」と6人の選手に声をかけた。「先生、マジック貸して下さい」いきなり、山本が笑顔で催促した。

○ 大阪のベンチコートを着た6人の選手を引き連れて、サブトラック場に向かう長いらせん階段を降りていく。サブトラック場から見て2階の部分に選手招集場があり、その通路付近でアップをすることにした。6人でスタンディングのバトンパス、バトンジョッグの指示をする。彼女らの「はーい!」という大きな声がこだまする。そのあとは選手個々に分かれて、動きづくりや速い動きで神経系を刺激するように指示する。彼女らは地面であるコンクリートを正確に捉えるので、通路内に接地の際の乾いた音が響き渡り、ピーンと張り詰めた空間を演出する。06年に大阪チームが日本一になったときを思い出した。あのときの決勝前のアップの雰囲気に似ていた。決勝レースでは48秒41の当時の大阪中学新記録で優勝したのだ。あれから、5年も立っているのに、日本も大阪もレベルが格段にあがっている。自分の心の中では、「(予選で出した)47秒83の大阪中学新記録を決勝ではさらに更新して表彰台を目指したい。3位以内をめぐって、東京チームとの勝負になる。」と思っていた。招集開始時間の10分前に選手を集めて「代表チームの誇りを持って、感謝の気持ちを持って堂々と走れ。」と6人の選手たちは力強く返事をした。そのあとは、「キャプテンの木本を中心に自分たちで最終確認をするミーティングをしなさい。」と指示。自分は少し遠く離れたところで彼女らの様子を遠目に見ていた。木本を中心に互いにうなずき合いながら、みんな真剣な表情で話合いをしていた。最後は6人で手をつないで円陣になり、大きな声で気合いを入れる。選手招集場へ消えていく4人の選手たちを見て、すがすがしい気持ちになった。

○ 15時35分。ABC女子共通4×100mR決勝。高らかにファンファーレが鳴った。小雨が降り出していたので、いつもより早い時間に照明の一部に灯がともった。フィールド種目もすべて終わっていて、フィールド内には視界をさえぎるテントやパラソルもなく、リレーの決勝の雰囲気をいやおうなしに盛り上げる。大阪ベンチからも大きな声援が飛ぶ。4レーンに愛知、5レーンに静岡、6レーンに東京、そして7レーンに大阪。レーン紹介のときに山本の姿が大きく映し出される。大阪チーム伝統の「自分らしく」と書かれた黄色のハチマキがまぶしく見えた。スターターの「ON YOUR MARK」の声で場内が静まりかえる。号砲とともに日本一を目指して9人の走者がきれいにスタートを切った。自分らしく、いつもどおりの走りを見せる山本。第1走者として申し分のない走りを見せて、2走の川崎へバトンパス。川崎が山本をかなり引っ張った感じのぎりぎりのバトンパス。川崎も臆することなく飛ばしに飛ばすその走りは迫力満点。第3走者の木本も大胆にもブルーゾーンから思いっきりスピードを上げて、これまた川崎を引っ張る形になりぎりぎりのバトンパス。外側のレーンの兵庫、千葉に肉薄する走りでいよいよ第4コーナーへ。第3走者、第4走者の9チーム計18人の選手が大きな夢に向かって、最後の継走をおこなう。「はーい!」という選手たちのかけ声がスタジアムに次々とこだまする。愛知が真っ先にテークオーバーゾーンを飛び出した。続いて、静岡。そして、黄色地に黒のラインのランシャツ、黒のハーフスパッツのユニフォームの大阪、わずかに遅れて東京。息を呑んで、ホームストレートの走りを見つめる。静岡のアンカーが愛知を逆転、その愛知に迫る大阪。その大阪を追いつめる東京。フィニッシュラインを4チームが駆け抜ける。すぐにモニターに目をやれば、地上デジタルの関係で2〜3秒遅れでそのゴールシーンが映し出される。3着大阪を確認した。3位入賞に湧く大阪ベンチ。大型映像でゴール手前からのスロー再生がリプレイされる。愛知のアンカー天城選手の表情が大きく映し出される。優勝した静岡は47秒43の大会新記録。2位の愛知が47秒67。3位大阪47秒77.さらに大阪中学新記録を更新したことになる。4位の東京が47秒82。47秒台が4チームと、きわめてレベルの高い4×100mRの決勝となった。

 続くABC男子共通4×100mR決勝でも素晴らしい活躍が見られた。大阪が咋年度に続いて2連覇。しかも、42秒42の大阪中学新記録。湧き上がる大阪ベンチ。大阪の男子リレー監督の河南中学の田中洋平先生と抱き合い、たくさんの先生と握手を交わした。「大阪の陸上強し!」の印象を与えた今大会となった。

   ジュニアオリンピックの表彰セレモニーの音楽が大好きである。このメロディーラインをふと耳にするだけで、目頭を熱くする自信があるくらいです。例のイントロの音楽が流れ出した。空はすっかり真っ暗になり、照明の灯りに照らし出されて表彰台に向かう3チーム計12名の選手たち。まるでスポットライトを浴びて出てくるスターのように、堂々としていて誇らしげであり、競技中では見たことのない満面の笑顔である。「プレゼンターは100m、200mの日本記録保持者、北海道ハイテクACの福島千里さんです。」とアナウンス。フォーマルなスーツに身を包んだ華奢(きゃしゃ)な福島がスタンドに向かって一礼する。彼女自身も02年、03年にこのジュニアオリンピックで活躍した選手であり、今やオリンピック選手となり、さらにはアジアの最速スプリンターの地位を確立するまでに成長したのだ。その彼女から、最初に3位の表彰台にあがった山本が銅メダルを首にかけてもらい、福島選手と握手を交わす。(羨ましい!!)続いて川崎、木本、木村。木村には3位の表彰状も渡される。「大阪!おめでとう!!」の声があちこちでかかる。2位の愛知。そして優勝の静岡。笑顔がキラキラと輝いている。係員に促されて、表彰台に12人が乗って記念撮影。左手でメダルをかざす。フラッシュがあちこちでたかれる。木本が「せーの」と声をかけると、4人の選手が両手でメガホンを作って、大阪ベンチに向かって「おおさか〜!応援ありがとう〜!!」と叫ぶ。拍手で応えたが、彼女らの熱い思いにまた目頭が熱くなった。

   4人の選手が笑顔で帰って来た。表彰セレモニーのときから、ランシャツの下にマジックペンを隠し持っていたという山本は、セレモニーが終わってから、真っ先に福島千里選手のところへ駆けよってサインをもらったと言う。メダルケースの箱には、今大会プレゼンターを務めた福島千里選手、北風沙織選手、飯塚翔太選手、江里口匡史選手のサインが書かれてあった。また、このメダルがとても美しくて素晴らしい。この大会が終わってから、今回、残念ながら出番がなかった西尾には「来年の夏は東雲リレーチームで日本一、秋は大阪選抜リレーチームで日本一を狙おう!」と、声をかけている。夏は48秒台前半、秋は日本中学新記録の47秒23がひとつの目安になると思っている。

 ジュニアオリンピックの銅メダル

 



福島千里選手の直筆サイン



○ 勝者の涙は美しい。夢に届かず、悔し涙を流す敗者もこれもまた美しい。夢に向かって真正面から挑んだ者にしかわからない熱い思いがあり、その思いがたくさんの人に綴られて、かえがえのないドラマが生まれるのだと思う。だから、陸上競技の記録に限界がないのだと思う。
第42回ジュニアオリンピックを終えて、大きな感動をもらい、ますます陸上競技の魅力にとりつかれてしまっている。中学陸上の指導が大好きである。