迎春   2009年1月

 大きな夢を持て!
   今年も部員ひとりひとりの夢が輝きますように。

           東雲中学校陸上競技部員顧問一同

新春恒例!陸上部員に贈るお年玉話

「筋肉ではない。脳を使って走れ!」と、為末大選手は言う。彼は世界陸上の400mハードルで2度の銅メダルを獲得した、世界に誇る日本のトップアスリートである。(この言葉の意味をもっと知りたければ、彼が書いた『日本人の足を早くする/新潮社』を読むといい。中学生でも簡単に読めます!)今、ここですべてを説明することは割愛(かつあい)するが、彼の「走り」に対するこだわりはとにかくすごい!黒人選手や欧米人よりも体格的、筋力的に劣る日本人が、どのようにすれば対等に戦えるのか、いやそれ以上に戦えるのかをいつも考えている。骨格の違いにも着目していて、黒人や欧米人と同じ筋肉の使い方には限界があり、日本人が昔から培ってきた日本人独特の身のこなしや動きの良さを生かした走りを模索(もさく)しているのだ。筋肉は大脳の指令によって動くのだが、その神経系の伝達経路は意識すればするほど、より複雑になっていく。つまり、伝達経路が次々と枝分かれするようにその数がどんどん増えていくと考えてもいい。筋肉そのものは、筋繊維という糸のようなものを束ねたものでできている。同じ筋肉を動かすといっても、その経路の数が増えれば増えるほど、1本1本の筋繊維ごとに別の指令が行き届くように、より効率的な筋肉の動きが実現するのだ。したがって、筋肉を動かすということは、大脳を極限まで使用することと解釈できる。

さらにもうひとつの意味がある。それはいつも言っていることだが、はっきりとした目標を持ち、競技に対するモチベーション(動機づけ)が高いことが、そのまま競技者のレベルを決定づけるということだ。身体能力が発展途上の中学生は、このメンタル的な要素がもっと大きな割合をしめるのだと思っている。ここで具体的なエピソードを紹介する。

年末に紀三井寺で行われる大阪中体連中長距離ジュニア強化合宿。2日目の夜のミーティングは、選手が自分の言葉で来シーズンの目標をみんなの前で発表するのが恒例となっている。みんな緊張の面持ちで言葉を選びながら、具体的な目標記録や、近畿大会や全国大会に出場することなどを発表する。今から4年前に忘れられない出来事があった。「僕の目標は3000m8分23秒80の日本中学記録を破ることです!」まだ、中学1年生の彼の発言に指導者は顔を見あわせた。自分は赤面して?うつむいた?? 今は駅伝の名門R高校で活躍する、当時東雲の1年生であったFの言葉だったからです。この合宿に10年以上参加しているが、後にも先にも日本中学記録を目標にあげたのは文元だけである。このことは指導者の間でも語り草になっていて、彼がやがて全国大会参加標準記録9分05秒を突破して全国大会に出場を決めても、「おい、目標まであと40秒くらいあるぞ!」と、冗談まじりに冷やかされたものです。ただ、「競技を始めたばかりの中学1年生が、すでに自分の専門種目の中学記録を知っていることはすごいことだ」と、多くの人に言われました。

これには、もうひとつ隠されたエピソードがある。この合宿の2ヶ月ほど前にジュニアオリンピックがあった。この大会に東雲からは2人の選手が出場していた。「自分は試合に出ないけど、ぜひジュニアオリンピックを見てみたい」と、Fが突然言い出した。保護者も了解していると言う。2人の選手は木曜日から横浜入りしていたのだが、Fは金曜日の授業が終わってから、新大阪駅からひとりで新幹線に飛び乗った。大冒険である。ただでさえ、眠るのが得意なFである。ドキドキしながら、新横浜駅のホームで新幹線の到着を待った。「熟睡していたらどうしよう?」新幹線が到着する。扉が開いた。人ごみに目を凝らす。「いない!!」やがて発車のベルが鳴る。すると、向こうの方からまるで家出少年のように、おおきな荷物を抱えたFが「先生〜!」と走りよって来たのだ。次の日から、スタンドにいるFの目の色が変わった。とても興味深そうに、ひとつひとつの競技を見ては感動していたのだ。最終日の男子3000m決勝。彼の興奮は最高潮に達した。信じられないペースでラップが刻まれた。トップでゴールした北海道の大住選手が日本中学新記録を樹立したのである。この瞬間とこの記録がずっと彼の脳裏に強烈に焼きついたのである。

 ついにFの日本中学記録更新はならなかったが、彼は自分の夢のとおりに今陸上人生を歩んでいる。挫折や失敗を乗り越えてプラスに転じる力強さを持っている。誰よりも「かけっこ」が大好きで、陸上に関することなら彼の集中力は人並み以上である。彼を見ていて「競技レベルは気持ちの差である」と強く感じた。

 最後に。この世の中には、ごくまれにすべての才能を兼ね備えた人がいるのかも知れない。(いくら才能があっても努力がなければ、天才選手にはなれない。)でも99%以上の選手はそうではない。すべては自分に才能がないと気づくことから始まるのだ。気づくことで、とことん努力する。ここが大きな分岐点。つまりは気づけること、努力できることが才能になる。素質がないのではない。素質を磨くことができない人が多いのである。LETS CHALLENGE 2009!