夢輝いたその一瞬!田中美調(みのり)が選手権100mJH2位

近畿大会、全国大会出場を決める!

 先の通信大会では全国大会の参加標準記録の15秒00を突破することができなかった100mJHの田中美調。最後のチャンスとなった大阪中学校選手権の2日目。前日のリレーでは決勝まですすんでいるので、すでに質の高い3本のレースをこなしている。

この初日は時おり突風が吹く最悪のコンディション。万博名物?の強い向い風に悩まされ、多くの有力選手が涙を呑んだ。2日目。風向きが気になった。前日の猛暑とはうってかわって、時おり雨がふるコンディション。きっと陸上の神様とお天道様が相談していて、どんな気象条件にも負けない強い意志を持った選手に全国切符を渡す腹づもりらしい。「雨でもいい。向い風が吹かなければ・・・」と念じていた強い気持ちが通じたのか、緊張の予選はほぼ無風。気まぐれに風が変わらないようにと願い続けて、やっと美調の登場する10組。

 勢いよく飛び出した美調はトップを独走し、真っ先にフィニッシュ。速報のデジタルタイマーは『15:14』と示された。(後に正式タイムは15秒15と発表された。)女子の標準記録が以前15秒24であったこともあり、勘違いしたアナウンサーが「東雲の田中選手。見事に標準記録突破であります。」とアナウンス。場内から拍手が起こったが、美調はもう次のラウンドに気持ちを入れかえているのか、表情ひとつ変えずに淡々としていた。通信大会のときの動きの硬さがない。予選の記録としては上出来である。

12時35分開始準決勝。3組あって各組2着と3着以降の記録上位2名が決勝に進出できることになる。その2組6レーンに美調。今度は珍しくホームストレートは追い風が吹いている。「今度こそ、突破して欲しい」と願う自分がいた。「早く結果を出して重圧から逃れたい」という思いと背中合わせで、いつも与えられた条件の中で全力を尽くしている選手にある意味失礼な表現になることに気づき、自分の心の狭さを恥じた。

ピストルが鳴って勢いよく第1ハードルを越えていく。リード足をたたきつけながら、夢のとびらに近づいていく。めまぐるしく入れ替わるデジタル時計の数字。この組も1着でフィニッシュ。『6 15:04』(6レーン15秒04の意味)100分の4秒足りない!複雑な思いを無理やり飲みこみながら、「やっていることは間違っていない。決勝のレースに集中しよう」と、ありきたりの言葉をかけた。

 1日中、天気が気になって仕方なかった。午後からところによって、激しい雷雨という天気予報。大雨や向い風では記録が望めないし、雷雨で長時間中断になるのも困る。今度こそ、正真正銘最後のレースになる。いろいろなことを考えるたびに、胸の中が締めつけられる思いでいっぱいになる。とってもありがたいことに、急成長した美調のことをたくさんの大阪の指導者が応援してくれていたのだ。準決勝が終わってから「これ食べさせてみたら、(暗示がかかって)うまくいくかも・・・」と言って、T中のM先生がタブレットを下さった。ブドウ糖のエネルギー補助食品で、決して変な薬ではない。「これを食べさせてうまくいったことが過去に何回かある。あとは先生の話術次第や。」と言う。わらにもすがる思いで、美調のところへ行きいくつかの話をしながら2つのタブレットを渡した。美調は不思議そうな表情で、そのタブレットを口に運んだ。「味わいながら食べていいですか?」と美調。最後の大一番を控えているのに、おいしそうに2つめのタブレットを食べる美調。日焼けした真っ黒な顔に玉のような汗。瞳がきらきらと輝くいつもの表情だった。

 どんよりとした雲が垂れ下がっている。今にも泣き出しそうな空。2時30分。高らかにファンファーレが鳴って100mJHの決勝の時間を迎えた。標準記録を突破すれば全国大会出場が、3位以内に入れば近畿大会出場が確定するのだ。3レーンの美調が紹介されると、ホームスタンド中央付近に陣取った東雲応援団から大きな拍手。東雲のハードルの補助員20名もすぐそばに座って祈るように見つめている。自分もゴール地点で監察審判の黄色い旗を持って祈っている。旗は手前のほうにわずかになびいているので追い風である。

「位置について」のスターターのコールで8人のファイナリストが入念なそれぞれのしぐさで、精神を集中させながらスタブロに足を置く。やがて「用意」の低い声。閃光まぶしく運命のピストルが鳴った。ハードルを勢いよく越えていく美調。他の選手も負けてはいない。6レーンの箕面三中の福井がトップで駆け抜けていった。速報のデジタルタイマーは『6 14:49』の表示。

ゴールラインの横で見ていた坂田先生に美調の順位を聞くと、首をかしげながら「2番かな?」という返事。1着のタイムとその距離から換算していくと、実に微妙なところ。何ともいえない重苦しい時間帯がとても長く思えた。すると、速報のデジタルタイマーが消えてすぐに『3 14:97』(3レーン、14秒97の意味)の表示になった。美調は何にも知らずに、自分の腰番号をはずしている。嬉しさのあまり美調のところに駆け寄って肩を叩きながら、「速報見てみ!標準記録突破や!全国大会おめでとう!!」と声をかけた。美調は一瞬あっ気にとられた表情を見せたが、ぽろぽろと大粒の涙を流して泣き出した。「やった!やった!」と飛び上がり、まわりの選手も集まってきて美調を祝福した。(赤坂台の選手も3着14秒99と表示され、このレースで全国を決めた選手は美調を入れて2人、合計5人となった。さすがに大阪のハードルはレベルが高い!)スタンドから、それからハードルの台車を運ぶ補助員からも「おめでとう!」の嵐。その頃にはもう笑顔になっていた美調。審判にうながされて、表彰の控え室に向かった。

 勝者を祝福するBGMが流れて、100mジュニアハードルの表彰式。スタンド最前列に陣取った東雲ベンチからまたも大きな拍手。カメラのフラッシュを浴びながら、表彰台にあがる美調を見て今までのことが走馬灯のように思い出された。美調が6年生のときの部活体験。ハードルを怖がらずに果敢に走る姿が印象的だったこと。陸上部に入ったものの、下を見て走るのでバランスが悪くスピードが全然なかった1年生の頃。(初めて走った100mが17秒台。当時の1年生女子は22名いたが、その速さは20番目くらいだったように記憶している。)「今のままでは大成しないので、専門種目を中長距離に変えてみようか」と坂田先生と相談したこと・・・・etc。去年全国大会やジュニアオリンピックに出場した久貝が「みのりといっしょにサーキットやると、おもしろい。」と言っていただけに、この冬季練習はすごくがんばっていた。でもわずか3ヶ月前は美調が全国大会に行くようになるとは夢にも思わなかった。(4月の第1回記録会のときは15秒71の記録でした。)自分が指導してきた選手の中でも伸び率は最高の選手だけに、思い出深い選手となった。人と人との出会いってすごい力を持つのですね。陸上部のみんながいたからこそ、こんなドラマが生まれたのだと思う。中学生の陸上ってホンマに面白い。自分も感謝、感謝です!陸上の神様、ありがとう。

 100mJHの表彰式が終わったとたんに、激しい雨が降り出した。もし、決勝レースがこのコンディションであったらと思うと、ぞっとした。美調のがんばりをきっと空から見て良く知っていたので、今まで我慢してくれていたのでしょう。お天道様、本当にどうもありがとう。

 「もし、(足の遅かった)美調が全国大会に行くことになったら、『なぜ美調は全国大会に行けたのか〜田中美調物語』の本を書くよ!」と、春先に美調本人やまわりの親しい指導者の人に冗談半分で言ったことがある。実際に美調が決勝レースで全国大会出場を決めた直後に、「先生、例の本2冊予約お願いします。」と言われてしまいました。

なぜ?こんなに急成長できたのか?確かに冬季のサーキット練習をしっかりやりきったことも大きいが、何よりも本人のメンタル面の強さがあったからこそだと思う。不器用だけど純真で、言われたことはいつも一生懸命。そして陸上が大好きで、自分の夢を信じきることができたことが一番の才能であったのだ。

 彼女の夢舞台は8月6日、7日に神戸のユニバシアード記念競技場で開かれる全国大会。そして8月21日〜24日に大分県九州石油ドームで開かれる全国大会となる。彼女の夢の続きが楽しみである。きっと夢はでっかく果てしないはずだ。今日も美調は真っ黒になって毎日輝いて練習している。そんな選手を見ていると、とても幸せな気分になるのだ。

リレーの伝統を見事に守りきった共通女子リレーチーム
思わず涙が出た感動の4位入賞!

「このままでは、東雲のリレーの伝統は守れない!」何度、この言葉を口にしたことか。04年から4年連続して近畿大会に出場している女子リレーチーム。05年、06年と2年連続して全国大会にも大阪府代表として出場している。

ところが、09年のシーズン前にはきびしい現実が待っていた。1年生の頃から大阪の短距離のトップ選手として活躍していた久貝が卒業。新3年生で100mを13秒台で走る選手は浅野ただひとりという有様でした。もともとこの学年のリレーは弱く、1年生リレーのときも8位ギリギリでやっと大阪大会出場を決めたチームでした。ところが、この現実を跳ねのけるだけの強い気持ちを彼女たちは持っていたのだ。キャプテンの河野がすばらしいリーダーシップで、チームの冬季練習を引っ張った。初めて田中美調がリレーメンバー入り。茨木市民の100mで優勝。アンカーとして確かな力を身につけた。潜在能力の高さを買って2走に起用した井上も、リレーのときの走りはピカイチであった。春のカーニバル、先の通信大会と2大会連続の大阪の決勝に残ったとはいえ、中学選手権のレベルの高さはよく知っている。正直、準決勝落ちもありうると考えていた。(去年の久貝のいたチームも通信では4位入賞したものの、選手権では予選落ちであった。)予選を51秒62の記録で、準決勝進出を決めた。先の通信大会で走り高跳びに専念させるために、3走の座を2年生の山元に譲った河野の走りが鍵となると考えた。河野に「ピッチを速く!のイメージを強く持て」というアドバイスを送った。迎えた準決勝。1組で51秒52.3着の記録で決勝進出を決めた。

 大会初日5時45分。共通女子400mリレー決勝。このレースで優勝したチームが全国大会の大阪府代表となる。そして、3位までが近畿大会出場となる。大阪のトラック&フィールドの試合で、一番競技場全体が緊張する時間帯になるのだ。「位置について」のコールで、競技場に静寂が訪れる。7レーンに東雲。ピストルが鳴って浅野が勢いよく飛び出し、2走の井上にバトンが渡る。井上も強豪ぞろいのバックストレートを激走。3走の河野にバトンが渡って、曲走路をすべるように走る。独走状態で石切、続いて島本一、友渕あたり。あとはテイクオーバーゾーン内がほぼひとつの群れとなっている。勢いよくバトンを持って美調が飛び出す。抜きつ抜かれつの爆走で、東雲が4位でゴール。先の通信大会決勝で出したベスト記録(長居第一の高速トラックで出た記録です!)に100分の2秒差に迫るセカンド記録という勝負強さです。

 大阪中学新記録で全国大会初出場を決めた石切のリレーチームの歓喜で盛り上がる競技場。その中で東雲の女子リレーチームのがんばりを見て目頭が熱くなった。「涙が出てしまう。」と漏らしていた坂田先生は、実際にその日のミーティングで涙が止まらなくて言葉にならなかった。やがて、4人のメンバーがそろって第2曲走路あたりを歩いているのを見て駆け寄った。晴ればれとした表情の4人。「(4位で、近畿大会出場を逃す順位なので)上を目指す選手にこんなこと言っては失礼だけど・・・。感動したよ。よくぞ、ここまで・・・。東雲のリレーの伝統はしっかり受け継がれたよ。」と、涙声になりながらひとりひとりと握手をした。笑顔でぽろぽろと大粒の涙を流す4人。

 「来年は2年生の井上が中心になって、きっと全国や近畿を目指すリレーチームを作ってくれるはずだ。」と声をかけると、3年生の3人も「(今の2年生なら)きっとやれるで。ゆいちゃんがんばりや。」と後押しする。笑顔でうなづく井上。遠くではためく「夢輝け!大阪東雲中」ののぼりのブルーも、きっとこのことを覚えていてくれているでしょう。1年後の東雲のリレーを静かに、そして、凛(りん)として見守ってくれるはずだ。

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